事業を続けていくためには、やむを得ず商品やサービスの値上げをしなければならない場合もあるでしょう。
顧客へ値上げについて知らせるのは心苦しいのですが、価格改定の理由を丁寧に伝えて顧客に理解してもらう必要があります。
今回は、自社商品やサービスの値上げの必要性を改めて確認するとともに、価格改定をどのように伝えるべきか、実際に使える例文を紹介しながら解説します。
値上げを知らせるのは必須!
商品やサービスの価格を抑える努力は大切ですが、改定をしなければ企業経営に大きな影響を与える場合は価格改定が必要になります。
そうはいっても、商品やサービスの値上げは顧客に歓迎されないでしょう。しかし、顧客への説明を丁寧におこなうことで懸念事項を払拭できます。
逆に価格改定を知らせずに実行に移せば、顧客は自社に対する不信感を募らせ他社に乗り換えるかもしれません。また、価格を据え置いたうえで中身を少なくする間接的な値上げ方法も考えられますが、顧客に判明すれば怒りを買うでしょう。
大切なのはやはり、企業側の顧客に対する誠実な対応です。企業が日ごろの感謝の意を示すとともに、存続のための価格改定を理解してもらえるよう丁重に願い出る姿勢が重要となります。
値上げを知らせる際の留意点
ここでは、自社商品やサービスの値上げについて知らせる際に、覚えておきたいポイントを解説します。
2週間前までには伝える
値上げに関する情報を伝える場合は、少なくとも価格改定日の2週間前までには知らせましょう。いきなり「明日(または来週はじめ)から値上げをする」と伝えるのは、顧客に不安や不信感を与え信頼関係にもひびが入ります。
場合によっては正式な通知を出す前に「今のところ〇月〇旬ごろより価格改定をおこなうつもりでおります」と先方の担当者に伝えておく場合もあります。
ただ、営業マンの自己判断で顧客に知らせたのちに「価格改定は中止」となる可能性もあります。このため、取引先へ値上げを知らせる場合は、自社内で価格改定が明確になり承諾を得たうえでおこなうようにしましょう。
価格を改定する「理由」を伝える
自社商品やサービスの値上げを知らせる場合は、価格改定の理由をしっかり伝えます。
まず文書やメール、Web上で価格改定を知らせる場合、件名を「値上げのお知らせ」ではなく「価格改定のお知らせ」とします。実際の文章では、値上げそのものよりも価格改定に至った過程(理由)に焦点をあてるほうが、顧客に理解してもらいやすくなります。
理由を伝える際は「事前に社内でコスト削減などの対応策をとった」「値上げは最低限に努める」など、企業側の取り組みを盛り込むと顧客に寄り添う内容になります。
改定価格と日程を明示する
価格改定をいつおこなうのか、金額はどう変わるのかを明確に示す必要があります。この場合、すべての商品なのか一部商品なのかについても、わかりやすく情報を提供しましょう。
文書やメールに記載しきれないときは、公式サイトのURLや問い合わせ先などを提示して、いつでも詳細を確かめられるようにします。
また仕入れや販売、請求などのタイミングが顧客によって異なる場合は、どこでどのように金額に違いが生まれるか顧客に説明する必要があります。
価格改定は、自社はもちろん顧客にとっても大きな事案です。自社だけよければいい、といった姿勢は致命傷となります。顧客側への説明を丁寧におこなって価格改定で生まれるデメリットを抑え、自社と顧客の二人三脚で乗り越える姿勢が大切です。
価格改定理由の伝え方【例文】
自社商品やサービスの価格を上げる理由について、顧客へしっかり伝えることが重要です。値上げの理由については下記の例が挙げられます。
- 原材料費の高騰
- 運送費の高騰
- 〇〇による経済活動の停滞
このような理由で価格改定を顧客に伝える場合は、下記の例文を参考にしましょう。
【例文】
- 原材料や運送費が高騰したため、価格改定を行わざるを得なくなりました。
- 〇〇によって経済活動の停滞が続き当社も影響を受けているため、やむを得ず価格の改定を行うこととなりました。
- ご高承の通り、昨今の原材料費や諸経費の値上がりにより、価格の据え置きは限界に近い状態になってまいりました。
- 原料や資材などの相次ぐ物価上昇により、現行の価格を維持することが難しくなってまいりました。
- ご承知のように部品価格が高騰し、製品コストが大きく上昇してしまいました。関連工場からの値上げ要請も受けており、弊社といたしましても苦慮すべき状況になっております。
このように業界や国内外の状況が影響している点を文章に盛り込むと、顧客に値上げの必要性を理解してもらえます。
価格改定を知らせる方法
ここでは、実際に値上げを通知する際に使われる媒体について紹介します。
取引先へのメール
取引先へメールを送る場合、件名の書き方は重要なポイントです。件名は「価格改定のお知らせ」など、メールの内容が予想できると同時にネガティブな印象を与えないようにします(「値上げのお知らせ」は直接的な表現であるため好ましくない)。
はじめに「日頃より弊社の製品をご愛顧いただきありがとうございます」など感謝の意を含めて伝えます。本題の「価格改定」について伝える場合は、理由や企業努力などを含めながら丁寧かつ簡潔にまとめます。
改定する前と後の価格を明示するとともに、改定する日(必要であれば時刻)を伝えます。結びの文まで顧客目線を貫き「今後も引き続きご愛顧いただけますよう努めてまいります」と添えましょう。
ただ、メールを一斉送信する場合は注意が必要です。送信するときBCCやCCに顧客のメールアドレスなどを手作業で入力しますが、トラブルの原因になる場合があります。メール配信サービスなどを適宜利用し、円滑に送信できるように努めます。
文書でお知らせ
文書で価格改定の案内を作成し、封書にて各取引先に送付します。非常に丁寧な伝え方ですが、文書作成や送料など自社にコストがかかる点が難点です。文書でお知らせする場合は、文書で通知をするメリットが双方にあり、自社の経営状態をみながら慎重におこないます。
文書で知らせる場合は、手紙の形式に従って記述しましょう。お知らせの内容については、メールの内容よりも文言が若干かたく、詳細になる傾向にあります。
公式サイトやSNS上でのお知らせ
公式サイトやSNS上で知らせる場合は、一目でわかりやすい表記方法が好まれる傾向にあります。
また、顧客が知りたい情報をより目立つようにするため、改行や文字のフォントや大きさなどに工夫を加えます。
顧客に疑問や質問がある場合、サイトやSNSは即座に対応しやすい媒体です。このため、顧客からの問い合わせがある場合は迅速におこなうようにしましょう。
店舗に掲示
価格改定にともなう掲示物は、お客様が見えやすい場所に設置します。値上げの理由や改定前後の価格などを明示するとともに、改定日についても忘れずに記載してください。
文字は見えやすい大きさやフォントにして、ぱっと見て何が書かれているかわかる掲示物にします。たとえば改定価格の表示については、価格の比較表を作成しましょう。
また、店頭に掲示するだけでなく、商品が陳列されている箇所やレシートなどに記載するとより丁寧な対応となります。
価格改定の文例~文書で値上げを知らせる場合~
商品の値上がりを取引先へ通知する場合の文例を紹介します。
上記の文書について、タイトルより下の書き方を順に解説します。※適宜、内容や量は調整してみてください。
①挨拶
「拝啓」以下「時下益々…」などは定型文となります。日ごろの取引に対する謝意を伝えましょう。
②値上げをする理由や背景
値上げの理由や背景を伝える際は「すでにご高承のとおり、原油価格の…」のように、価格改定はやむを得ない旨を添えるようにします。取引先も自社と同じように、原材料価格や運送費用が上昇している影響を受けていれば「うちもそうだからな…」と共感してもらえます。
③企業努力と実際
「弊社といたしましては…」以下の文にあるように、企業努力を伝えたうえで「なお現状は厳しい旨」を記述します。
その理由は、単に原材料や運賃の高騰を述べて価格改定をおこなうとするよりも「顧客のために」できることを重ねる自社の姿勢を伝えるほうが、顧客の心証が良くなるためです。
④顧客へ丁重に願う
商品の値上げにともない顧客に負担をかける点を謝罪するとともに、価格改定に関する理解と取引の継続を丁寧にお願いします。
⑤そのほか必要な情報
改定する商品があまりにも多い場合は文書だけでは伝えられません。ホームページのURLなど確認のために必要な情報を添えると良いでしょう。
また、今回の文書には記載がありませんが、問い合わせ窓口を個別に設置している場合は連絡先を明示しておくと親切です。
⑥対象商品の改定価格
対象商品が多くあるとしても、おもな商品の価格変動に関してはいくつか提示しましょう。旧価格と新価格を比較できるように表記します。
⑦価格改定の日程
いつから価格が改定されるのかを明示します。あらかじめ「ご注文分より」のように記載すれば、注文や購入、請求日の区別になるため混乱を回避できます。
より丁寧な「値上げ」の伝え方とは?
段取りよく文面や表記を丁寧に記述するのはとても大切ですが、場合によっては顧客との信頼関係にひびが入ったり今後の取引に影響が及ぶ可能性もあります。
ここで紹介するのは、これらのリスクをできるだけ避ける方法です。
場合によっては直接顧客に伝える
値上げの決定や価格改定の説明準備が整った場合は、できるだけ早めに顧客に伝えましょう。はじめにお伝えしたように、遅くとも2週間前には先方に知らせます。
プレスリリースやWebサイトなどで突然発表したり、請求時に初めて値上げを知ったりすれば、いくら満足度の高い顧客であっても不快に感じます。
また早めに伝えるにしても、メールで一斉に送るよりも直接会って話をするほうが「クッション」になるケースもあります。取引先を訪れた際に直接担当者に伝え、後日メールや文書を送付する旨を伝えると顧客に良い印象を与えられます。
顧客の数が多くて個別に対応しきれない場合は、質問を受け付ける窓口を用意しましょう。顧客に価格改定を前向きにとらえてもらうためにきめ細かな取り組みを大切にします。
顧客にとってのメリットを伝える
価格改定によって顧客にどのような「メリット」を与えられるか考えましょう。たしかに商品やサービスの値上げはデメリットに受け取られるため、メリットを伝えるのはなかなか難しいかもしれません。
しかし、商品やサービスを利用しやすくしたりアフターフォローの充実を伝えたりして費用対効果がある点をアピールすれば、顧客はメリットを感じやすくなります。
顧客との対話の場を設定する
取引先が価格改定に不満をもつ場合でも、顧客の言い分に耳を傾ける必要があります。顧客の不満は実にさまざまでしょう。「予算を組んでいなかった」「社内で関係部署から承認をしてもらう必要がある」「もっと早めにいってくれたら対応できた」などです。
価格改定がやむを得ないとはいえ、自社の正当性ばかり伝えては顧客に理解してもらえません。
顧客の悩みを直接聞く場を設定しましょう。しかし話し合いの場を設定しても、取引先の予算によっては値上げに対応できないケースもあります。
その場合は値上げの時期を先に延ばしたり、同じ価格帯で取引を続けられる方法を提案したりします。
やはり顧客との関係を継続できてこそ、価格改定による自社のデメリットを軽減できます。値上げの正当性を念頭におきながらも顧客に共感的な姿勢で対応し、信頼関係をより強固にしていきましょう。
まとめ
商品やサービスの値上げは、企業だけでなく顧客にとっても大事な課題です。顧客に不信感を抱かせないために、価格改定に関する情報を丁寧に伝えましょう。
また、文書やメールなどの媒体によって微妙に表現を変える必要があります。価格改定の理由や内容を明確に示すとともに、顧客の心証を悪くしない表現や言葉を選ぶようにします。
さらに、一方的な値上げと受け取られないためには顧客の声にしっかりと耳を傾け、真摯に対応する姿勢が欠かせません。
今回の記事を参考にして、自社にとって必要な価格改定を顧客に前向きに受け止めてもらい、よりよい関係を構築していきましょう。