YesといってからBut…。この順番で相手の話に対する自分の思いや考えを伝える話法がYes,But(イエスバット)法です。クッション話法の一つで普段の会話、クライアントとの会話などで使えます。
分かりやすいので営業トークの王道として使われた時期もありました。ただ、デメリットがあるのは事実。近年は「Yes,But法は古い!」となり、それ以外のクッション話法を用いてよりよい営業をめざす方が増えました。
今回はまず、Yes,But法について解説します。この話法を使うメリットなどを解説しつつ、仕事やプライベートに有効な話法を5つ(Yes○○法)ご紹介します。この記事を読めば、型にとらわれない自分なりの話し方やコツを探れます。ぜひ最後までお読みください。
そもそもクッション話法やYes,But法って何?
「ところでYes,But法って何?」「クッション話法さえ実はよく分からない」という方もいるでしょう。この章ではYes,But法とクッション話法について簡単に解説します。
まずクッション話法ですが、その名の通り相手と会話における潤滑油、クッションの役割を果たす会話法です。例えば、あなたが友人をお気に入りのラーメン店に連れていったとします。そこでの会話がこちら↓
あなた:このラーメン、濃厚でいい味してるだろ?!
友人:はっ?俺、がまんして食べてるんだけど。
あなたはショックですよね。怒りさえ感じるかもしれません。クッションどころか岩や壁など硬いものがドーンと友人との間を遮る状況。つまり、友人の返し方はYes,But法ならぬNo,And(ノーアンド)法といえます。Yes,But法なら次のようになるでしょう。
あなた:このラーメン、濃厚でいい味してるだろ?!
友人:うん、濃厚だよね。ただ…ちょっと俺には濃いかも~。
お気づきのように、まずは「うん(Yes)」そして「濃厚だよね」と繰り返し、そこから「ただ…(But)」と入っている点が”クッション”になっています。No,Andが畳みかけていたのに対し、こちらは柔らかいですね。
「私はこう思う」と最初からストレートに言わず、相手の意見に賛成しつつ異論をつけ足すパターンです。この方が人間関係にひびが入りにくいでしょう。
ただ、言い方や頻度などに注意しないと、そのパターンに不信感を抱かれる可能性もあります。次の章で詳しく説明しましょう。
Yes,But法がクッションにならない場合もある?!
このクッション話法は、一時期ビジネスシーンで多く用いられました。使い方を誤ったり頻繁に使い続けたりすると、かえって相手に怪しまれます。
また自分が常用する場合、クライアントにこの手法を使われたらどう思いますか?おそらくいい気持ちはしないでしょう。相手に冷めてしまい、話の内容を素直に受け入れなくなります。
また、次のような場面を想像してください。
あなた:御社の新商品に弊社の○○を入れていただけますかね。
相手:はい、○○の味も見た目もいいですからね。社内でも検討いたしました。部長も好意的に受け止めてましてね。しかし、最終的にA社さんに決定したんですよ。
こちらもショックですよね。最初は確かにYesでした。しかもAndAndと続くいい流れ…。”し・か・し”締めの言葉がキツイです。「だったら始めから言ってくれ」こう言いたくなるでしょう。
つまり、Yesで始まる言葉は聞く相手に期待をさせます。いい気持ちになったところで、ズバリ本音を伝えられると落胆度がMax。
それなら最初から「実はね、A社さんに決まってしまったんです」と言われた方がいいでしょう。そのあとで理由を丁寧に教えてもらい次回にリベンジ…の流れの方がモチベーションも保てます。
いきなりButと始めるのは避けたいところですが、Yesで始めて回りくどければ相手はすっきりしません。結局、何が大切かといえば、相手の心理を探りつつ互いにいい気持ちになれるような会話です。
次の章でご紹介するクッション話法は、昨今用いられるようになった方法。ご存じの方もいるでしょうが、この記事で確認しましょう。
Yes,But法以外のクッション話法で心理を探る
始めにお伝えしますが、以下の方法を用いれば万全!というわけではありません。大切なのは、相手の心理を探りながらの姿勢。さまざまな「相手」がいますから、その方に合わせた言葉の選び方・雰囲気なども重要です。
Yes,And
Yes,And(イエスアンド)法とは、相手の思いや意見にまず共感・肯定し、その後で「実は」「それでしたら」などで情報や内容を加える方法です。例えば次のようにしてみたらどうでしょう。
相手:母の調子が悪く病院に連れていきますので、出社が2時間ほど遅れます。
あなた:それは大変です。でしたら午前中有休をとってください。場合によっては一日でもいいですよ。
相手はおそらく「申し訳ない」という気持ちでいます。まずは共感モードで一言。その後にBut法なら「でもね、忙しいんだよね」でしょう。しかし実際はAndで相手の心理にさらに安心感を与えます。相手は「ありがたい。明日はがんばるぞ」とモチベーションをあげられるかもしれません。
Yes,If
Yes,If(イエスイフ)法は、相手の話に対し「もし~なら」と条件を与え、相手の不安を取り除いたり前向きに感じてもらえたりする方法。次のような場面で確認しましょう。
相手:でも、保険に入るとかえって損な感じがするのよね。
あなた:そうですよね、ある年齢になれば「必要ない」と思うのも分かりますよ。もし貯蓄型の保険でしたらご案内できる商品がございます。
相手の気持ちにまず同調します。「実際そうですよね」の感じです。ある年齢になれば…の付属語は、気持ちを代弁しているともいえるでしょう。そこへ「もし○○なら課題を解決できるかも」と提案するのです。悩みや不安の解決法があるとなれば、相手は興味を示すでしょう。
Yes,What
Yes,What(イエスワット)法は、相手の話に同調しつつ、さらに具体を引き出したいときに使われる話法です。例えば、家電店で次のような会話があったとします。
相手:大きなテレビはいらないのよ。
あなた:なるほど。ちなみにテレビで何をご覧になっていますか?
お客様は、こじんまりと生活されている高齢の女性と推定できます。しかし「普段何を視聴しているのか」「テレビに何を求めているのか」も具体的には分かりません。店員としてはその詳細を知りたいところ。視聴スタイルに合わせた製品を紹介した方がいいからです。
具体を知りたいときは「何」が役立ちます。映画好きならYouTubeやAmazonをリモコンでポチっとやれば視聴可能なテレビを紹介できます。手持ちのDVDで世界遺産シリーズをご覧になる方なら内蔵型がいいでしょう。
Yes,How
Yes,How(イエスハウ)法は、相手の思いや考えを聞いて一旦同調したのち「ではどうしたら・どうやったら…」と返す方法。相手の言葉を否定せず、悩みや疑問の解決のための対処法を共に考えましょうという感じです。例えば次の場面はいかがでしょう。
相手:この車、乗り心地もすごくいいのですが、ちょっと値段がねえ~。
あなた:確かに即決できるお値段ではないですよね…。お客様が予定してらっしゃる価格帯はどのくらいですか?
中古車でもあっても高い商品です。価格の吟味は当然ですよね。「いいものがいいけど、できるだけ安く手に入れたい」のはどのお客様も同じでしょう。その気持ちに同調しつつ、悩みの解決に少しずつ迫りたいところ…。
ここで「どのくらい」という言葉を使ってお客様の心中を伺うのです。具体的な数字が上がれば、解決に近づく可能性があります。
Yes,SoThat
Yes,SoThat(イエスソーザット)法は、相手の思いや考えを受容したのち、「だからこそ○○があるのです」と印象づける話法。相手の不安の逆をつくパターンです。Butの代わりに自分の思いや考えに引き込むイメージ。例えば次のような場面で使えます。
相手:旅行や買い物に出かけるのも少なくなったし、新しい服はいらないのよねえ。
あなた:なるほど…コロナ禍で気持ちもそうなってしまいますよね。そんな状況だからこそ、とっておきの一枚をご自宅でも着用してみてはいかがでしょうか。
この状況では「しかし」「でも」と続けて話してもいいかもしれません。ただ、Butの代わりにSothatと思えば、ポジティブな提案型に変更できるでしょう。
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このように「でも」ではなく、ほかのつなぎ言葉で相手の心理を探ります。つまり相手が自分自身の本音に気づけるようにサポートするのです。あくまでも相手目線。心の中を想定しながら返す言葉を考えましょう。
その思いがあれば、相手にとって良い提案・解決法となりあなたの言葉に乗ってくれます。「乗せる」とはマイナス的に捉えられがちですが、一人で「乗る」のではなく一緒に「乗りましょう」のイメージです。
また、あなた自身の言葉にきちんと責任がとれるかどうか?つまり誠実さも大切にしてください。
クッション話法の落とし穴「質問攻め」
型があると安心ですね。覚えやすいですからマスターしやすいでしょう。しかし、クッション話法の落とし穴がそこにあります。自分が質問しているつもりはなくても、相手にとっては「質問攻め」と受け取られる可能性があるからです。
質問型でなくても、共感・提案型であれ、ビジネスシーンおいては利潤追求がついて回ります。あなたは無意識でしょうがお客様にプレッシャーをかけてるかもしれません。
たとえ商品を購入してもらっても、お客様から「うまく乗せられてしまったわ」と思われてることも…。あなた自身は営業成績アップとなっても、お客様との信頼関係はどうでしょう。「あの一回きりて終わり」となりますね。
クッション話法は手段や方法であり、目的ではありません。目的は「会話のあとも(相手が)気持ちよく生活できる」、もっというなら「より幸せになれる」こと。
「本当に(買って)よかった」と将来にわたって感じてもらえればリピーターとなるでしょう。信頼関係が築けたかどうかは、このように事後に分かるのです。
自分の営業成績アップはあくまで結果論。目的は「お客様が幸せに」。そのためのツールとしてクッション話法を使ってみましょう。
営業意外にプライベートにも使える!
クッション話法は、ビジネスシーンだけでなくプライベートにも有効です。例えば子育て。この記事を読んでいる方の中にも、子育て真っ最中のお父さん・お母さんがいらっしゃるかもしれません。
意外とYesからでなくNo(だめでしょ、いけない、なんでそんなことするの?)から始める場合が多いのではないでしょうか。意識しないと、ついつい発してしまう否定語。
その場合、今回のクッション話法は親と子の双方にメリットとなります。「ダメ!と思ってもまずはYES」と心に強く留めおくだけでも違います。いきなり叱るのは自分もストレスですよね。
とくに子どもは大人と違って正直です。親の否定語に「泣く」「叫ぶ」「怒る」「無視する」など感情をあらわにします。ですからビジネスシーンで活用の前に、プライベートで使ってみてはどうでしょうか。日常的にYes,○○法を活用すれば、自分の交渉術に磨きがかかるかもしれません。
しかも家族・友人・恋人との関係性をより良好にしてくれるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?今回は、Yes,No法などほか5種類のクッション話法をご紹介しました。もしかしたらあなたは今まで、相手の言葉に対し即「でもね」と返していたかもしれません。
ただ、この記事を読んでYesから始まる話法の効果に気づかれたでしょう。ぜひこれから仕事やプライベートで意識してみてください。きっと相手だけでなくあなた自身の気持ちも変わってくるはず。
自分の意見をどんどん伝えたい場合もぐっとこらえる、否定しない。一旦受け入れてから「ちょっと聞いてもらっていいですか?実は私、こう思うのです」と切り出してみましょう。おそらく相手は耳を傾けてくれます。それが信頼関係づくりの第一歩です。