営業に携わるビジネスパーソンにとって訪問販売は重要ですが、プレッシャーのかかる業務です。自社商品・サービスをすすめようにも、最初から話を聞いてもらえないケースは多いでしょう。
会社の研修でクッション話法や第三者話法を教わっても、まずはお客様の警戒心を解かねば具体的な営業はできないのです。
今回は、訪問販売の突破口が開けないと悩む方へ基本的なトーク術をお伝えします。とくに個人宅の訪問販売でお客様から警戒されないための方法です。
個人宅への訪問販売でコツがつかめれば法人への営業活動でも使えますので、ぜひ最後までお読みください。
訪問販売における営業スタイルの基本とは?
個人宅への訪問販売の目的は、自社商品・サービスを知らないお客様にそのよさを伝え購買につなげることです。まずは家のドアを開けてもらい話を聞いてもらわねばなりません。
しかしお客様は、初対面の人に簡単にドアを開けません。その警戒心を解くために基本スタイルが必要となります。それがアプローチとトークの2点です。
まずドアを開けてもらうには、インターフォン越しの表情・立ち位置・おじぎなどの所作。トークというよりアプローチの方法です。そして応対があれば、営業トークのスタート。営業トークは「挨拶・自己紹介・目的説明」が基本となります。
警戒されない訪問販売は、正しいアプローチ法で第一印象をよくすること。そして挨拶・自己紹介・目的説明などの基本的なトークで警戒心をさらに解くことが必要です。そこで、次の章から基本のアプローチ法とトーク法を解説します。
営業トークの前に確認したいアプローチ法
営業トーク前のアプローチは、初対面のお客様に警戒心を抱かせないのが目的です。見た目・雰囲気などで印象が変わります。ここではアプローチ法を「表情・立ち位置・おじぎ」の3つに絞りました。
最初の営業アプローチ法その1:表情
訪問営業で顔を合わせる際、やはり表情は重要ポイントです。ただ、身だしなみは「身につけるもの」を変えればいいのですが、表情を変えるには身だしなみ以上の努力がいります。
意識して口角を上げ笑顔をつくります。また疲れ気味の顔は、お客様の印象も悪くなりますから、ときどき鏡でチェックしましょう。場合によっては顔が映えるカラーワイシャツやブラウスを選択するのもいいでしょう。
疲れていても自然体の表情がぱっとつくれるように…。”言うは易く行うは難し”ですが、やはり大切にしたいアプローチ法です。
最初の営業アプローチ法その2:立ち位置
立ち位置とは、インターフォン越しに対応する場合の立つ場所をさします。インターフォンを押したあとは一歩下がった方がいいでしょう。画面に映し出されるあなたの顔のアップで、お客様に威圧感をもたせないためです。
ですから、ほどよい距離に立ち応対の第一声があるまで待ちます。「はーい」という声が聞こえたら、少し近づいてお客様に声が届くようあいさつしましょう。その後のおじぎの姿が、お客様に見えるような距離感が有効です。
最初の営業アプローチ法その3:おじぎ
おじぎは訪問販売の場合も大切です。おじぎで心を動かすには45°ではなく90°くらいの深めがおすすめです。
ただ、おじぎのスピード感は大切しましょう。あまり悠長におじぎをすれば時間が長く感じます。お客様がそれを見てイライラしてしまうかもしれません。
おじぎをしたところで一旦止めましょう。3秒だと長いかもしれません。1、2と数えたら3で戻すタイミングがベストでしょう。
機敏に深くおじぎをして一旦止めて顔を上げる…この一連の動作はお客様に清々しさをアピールできます。
最初の訪問販売で警戒心を解く営業トーク法
前章でお伝えしたアプローチ法を実践したら、いよいよインターフォン越しにお客様への第一声を発します。警戒心を解くトーク法のポイントは3点。「あいさつ」「自己紹介」「訪問の目的」です。
警戒されない営業トーク法その1:あいさつ
初対面だから「初めまして」と言いがちですが、あえて使わないようにしましょう。「初めまして」は自然につながれる相手にはいいのですが、訪問営業ではお客様に距離感を抱かせる場合があります。
距離感をできるだけ縮めるため「初めまして」ではなく、以前からの知り合いのように「こんにちは」「お暑いですね」とあいさつしましょう。
またお客様に対する気遣いは忘れないようにしましょう。もしかしたら昼食の準備をしているかもしれません。あるいは赤ちゃんの寝かしつけているかも…。
インターフォンを押すあなたは知らないので仕方ないのですが、だからこそお客様に気遣いが必要です。
「お忙しいところありがとうございます」「お昼どきに申し訳ありません、ありがとうございます」など、感謝の言葉を添えましょう。そして先ほどお伝えしたアプローチの一つ、おじきをします。
いつおじぎをするのか判断が難しくても必ずおじぎはしましょう。ぎこちないおじぎでも、ここでは誠意を見せるのが大切です。
警戒されない営業トーク法その2:自己紹介
訪問販売では親近感のわく自己紹介をしたいものです。表情・立ち位置に気をつけ、自然体のあいさつができたら印象はいいでしょう。自己紹介の質を上げられたらお客様との距離はぐんと近くなります。
ただ、普通の自己紹介ではお客様の心をつかめません。「あら、そうなの…でも今忙しくて」と断られてしまいます。警戒されず、しかも商品の案内へ進むには自己紹介に工夫が必要です。
「わたくし○○会社の○○です。この度…」と流れるように話しても「あ、足りてます」と途中でトークを切られてしまいます。ここでほんの少しプラス情報を入れるのです。
例えば「いつもお世話になっております。私、A駅近くの第一ビル1階で営業しております▢▢会社の○○と申します…」という感じです。
言い出しの「いつもお世話になっております」は意外と効果があります。お客様によっては「知らないのに」と思うかもしれませんが親近感がわきます。
そして単に「○○会社の○○です」と伝えるより、会社の場所を具体的に入れるのも有効です。ただ、お客様も知っている場所が条件となります。
警戒されない営業トーク法その3:訪問の目的
訪問販売で一番警戒されやすいのが「訪問の目的」を伝えるときです。自己紹介まではうまく言えても、商品名やサービス内容を伝えただけで「あ、結構です、いりません」を返されてしまうでしょう。
そこで「訪問の目的」を伝える際に必要な視点として2つご紹介します。「呼名」と「相手の気もち」です。まず「呼名」から解説します。
警戒されないためには、目的を伝える際も「あなたに」という気もちを伝えましょう。「今回は○○様のために○○の商品をご案内したくまいりました」という感じです。
訪問した先のお客様が女性であれば、日ごろ家族に何と呼ばれているでしょうか。「お母さん」「ママ」「おばあちゃん」なかには「おい」かもしれません。突然現れたビジネスパーソンに苗字であれ「○○さん」と言われるのは新鮮に感じるでしょう。
しかし、お客様によっては「どこから分かったの?個人情報でしょ?」と返すかもしれません。そのときは「表札で確認いたしました」と伝えましょう(表札のないお宅に対しては呼名は慎重にしましょう)。
また、呼名を使うのはお客様に特別感を与えるだけでありません。あなた自身が目の前のお客様に特別感をもてるようになるのです。つまり「この○○様のためにこの商品をご案内する」姿勢です。
「本日は○○様のために○○社で多くの方にご好評いただいておりますサービスのご案内に伺いました」「わが社のこちらのサービス、ぜひ○○様にも喜んでいただけたらと思いまして」などの言葉に気もちが込められるでしょう。
次に「相手の気もち」についてです。訪問の目的を1、2文で伝えたのちに続ける質問に関する視点です。例えば先ほどの「~ご案内に伺いました」ののち、あなたならどのような質問をしますか?
「電気はどこをお使いでしょうか」では、商品やサービスの売り込みをされるだろうと警戒されます。代わりに「近頃電気代が高くなっておりますが、少しでも下げたいと思われていませんか?」という質問に変えます。
つまり自社商品・サービスの売り込みでも他社比較で自社のアピールでもなく、お客様の悩みに寄り添う質問にするのです。
「電気代を下げたいけどどうしたらいいか困っている悩み」あるいは「もっと電気代が安い会社に変えたいという欲」にできるだけ近い投げかけをしましょう。「あ、そうなの、実はね…」とお客様から話をつなげるかもしれません。
訪問販売で念頭におきたい注意点
まず確認したいのは、訪問販売における3つの事項をきちんとお客様に伝える点です。特定商取引法で義務付けられています。その3点は次の事項です。
・社名
・契約締結に関する勧誘であること(営業であること)
・販売する商品やサービスの内容
お客様に確実に伝えましょう。ただ、基本トーク法「あいさつ・自己紹介・訪問の目的」をしっかり活用すれば難しくありません。
また、訪問販売で注意したいのは、あなたの質問をお客様が応えたとき「それは良くないですね」のように否定的な言葉を発しないこと。相手の話した言葉にはまずはYESで返しましょう。
お客様が「今は○○社を使っているからいいのよ」と話したとします。それにあなたが「○○社を使ってるのですか?それはよくありません」と返したとしましょう。
相手の心証は悪くなります。あなたが好意で伝えたとしても、受け取る方は「否定された」と感じます。
「○○社を使っているからいいのよ」と言われたら「そうですか、○○社をつかってらっしゃるのですね。ちなみに価格はいかがでしょうか。もしかしたら、わが社の方が若干お安いかもしれないので…」と返しましょう。
相手の選択を否定せず一度認めたうえで、自社との違いがある”かもしれない”と低姿勢で伺うのです。これならお客様が話を続けてくれる可能性があります。
さらに、質問の往来でお客様の警戒心が解けたと感じても、契約まで急がないようにしましょう。女性のお客様なら家族や知人に相談したいかもしれません。気もちを推測し、一旦熟考の機会をお客様に与えて警戒心を解くのです。
お客様のなかには断るのが苦手な方もいます。家人に相談する時間をもらえたら安心して、次の機会を設定をしてくれるかもしれません。焦りは禁物。この姿勢は金額が大きい商品・サービスであればあるほど大切な姿勢です。
あなた自身の営業スタイルが、お客様を焦らせたり追い込んだりしていないか常に自問するようにしましょう。
訪問販売で自信をつけるための方法
ここまで基本アプローチ・トーク法でお客様の警戒心を解く方法をお伝えしました。しかし成功体験より失敗体験の方が多いビジネスパーソンは自信を失いがちです。
自信をつけるためにはどうしたらいいか…。この悩み解決に以下の5つの視点をお伝えします。
・最初から上手くいくと思わない
・訪問営業の数をとにかくこなす
・ちらしを配っておくなど準備をする
・地域や環境などの情報を把握する(営業以外の調査・自分の力ににもなる)
・雑談力を身につける
訪問販売で自信をつけるには失敗より成功体験が多い方がいいのですが、初めて社会人になった人ほど難しいでしょう。ある意味、これは当たり前。20代は、失敗や成功の数をかぞえるより「営業で回った数」を意識するようにしましょう。
訪問回数が増えれば増えるほど、さまざまなお客様に出会えます。いろいろな地域・年代・職業の人々を関われば人間に対する見方も多様になります。その経験が営業力の向上につながるのです。
また、スキル面で先輩ビジネスパーソンに追いつけない場合は、足だけでなく頭も使います。IT化の潮流の中で育った若い感覚を生かしてSNS発信をしたりWebで広告を作成したりしましょう。上司に許可が必要かもしれませんが、趣旨説明も仕事のうちです。
不在あるいはインターフォン越しで断られた個人宅のポストにチラシを入れるのもいいでしょう。事前に地域や顧客情報などをできるだけ集め、営業トークに活かせる視点を洗い出します。
普段は仕事オンリーの生活でしょうが、休日は趣味に興じたり異業種の友人たちと時間を共にしたりして視野を広げましょう。お客様との何気ないトーク(雑談)に活かせます。お客様の警戒心を解くにも雑談力は鍵になります。
やれることはあります。自信をもつために…というより「まずやってみる」。それに徹してみましょう。
訪問販売は自分の殻を破って挑戦
訪問販売の原動力は「自分の殻を破る」気もちです。確かに訪問販売は、お客様から警戒されやすい業務です。ハードルが高いので、失敗や挫折ばかりになるかもしれません。
しかし、アプローチやトークの仕方によっては固定のお客様を獲得できるチャンスといえます。お客様の本当の悩みや欲を身近に感じられる貴重な場、まさに営業の最前線なのです。
まずは基本のアプローチ・トークをしっかり身につけましょう。失敗や成功の数より訪問数に目を向け、目の前のお客様への気遣いを大切にしてください。そして、うまくいかないと悩むより「行動すること」。この姿勢を大切にしていきましょう。