ビジネスでは、普段の営業活動や見込み顧客との商談、会議やプレゼンテーションの場で、ヒアリング力が必要となります。
ヒアリング力の高い人は、コミュニケーション力に優れ、営業分野で活躍が期待されるでしょう。しかし「ただ聞くだけ」では、顧客ニーズを把握して顧客に合う商品やサービスを提供するのは難しくなります。
本記事では、ビジネスの場で重要なヒアリング力を伸ばすためのコツを紹介します。ヒアリングをする際に「何をどうするのか」そのポイントが明らかになりますので、実際に営業活動に活かせます。
それではまず、ヒアリング力について確認しましょう。
ヒアリングとは
営業におけるヒアリングとは、顧客のニーズを引き出して、めざす理想像とのギャップを明確にしながら課題を解決する糸口を見つけることです。「ただ聞く」だけでなく、顧客の課題に合う提案内容を出さなければなりません。
また、場合によっては顧客本人が気づかない潜在的なニーズや課題を明確にするヒアリング力が必要となります。ヒアリング力を磨けば、顧客が納得のいく商品の購入へとつなげることができ、永続的な信頼関係を構築できるでしょう。
逆に「ただ聞いてうなずくだけの営業マン」では、顧客は物足りなさを感じます。あるいは「この営業マンは本当に課題を解決してくれるのか」と疑いの目を向ける可能性があります。顧客に不信感を抱かせるのは、営業の場面で絶対避けなければなりません。
つまりヒアリング力は、顧客の本音を聞き出して最適な商品やサービスを提供したり、潜在ニーズを浮き彫りにして顧客によりよい情報提供をしたりするのに欠かせないスキルです。また、ヒアリング力のある人は、顧客との信頼関係を築きやすく営業成績も向上させられるでしょう。
ヒアリング力がもたらすメリット
前述のようにヒアリング力は、顧客のニーズを引き出し相手にとって最適な商品やサービスを提供するために必要です。ここでは、ヒアリング力を向上させることで、得られるメリットを3点紹介します。
最初にお伝えする「顧客のニーズが明確になる」のはヒアリングをする目的でもっとも重視したい点です。例を挙げて分かりやすく説明しますので、しっかり確認しましょう。
顧客のニーズが明確になる
ヒアリングは、顧客自身がすでに気づいているニーズを明確にするだけではありません。顧客がまだ気づかないニーズを浮き彫りにする働きをもっています。
たとえば、次のように3人の営業トークを比較してみましょう。
- Aさん:「はい、そうですね、なるほど、同じですね」
- Bさん:「なるほど、生産性が上がらない点に悩まれているのですね。ただ、もし〇〇を試されるとすれば、新たな時間が生み出されるかもしれません。」
- Cさん:「同じような悩みをもたれるお客様は多いですね。ただ、お話を伺っておりますと…実は社員の方々が操作に慣れず不満が多くなっている点で悩まれているのではないでしょうか」
どのトークも間違っているわけではありません。ただ、Aさんは単に相づちをしているだけとなり、顧客のニーズ把握にあまり積極的でないと思われても仕方ないでしょう。
Bさんは、顧客の話をリピートして確認していますね。さらに「ただ…」と続けて新たな視点を提案しています。
Cさんは顧客の話す悩みに共感しつつも「実は…」とつなげて顧客の本音を突いたコメントを加えています。顧客は、Cさんの返し方を聞いて自身の本当の悩みに気づく可能性があります。
つまり、同じ話をしてもヒアリングの姿勢や方法次第で、顧客の反応が変わってしまうのです。Aさんと話をしたケースよりもBさん、さらにはCさんのヒアリングの方が顧客の満足度は高くなります。
しかも、Bさんのヒアリング後は「生産性が上がるシステムの案内」を、Cさんのヒアリング後は「システム導入に関わるサポート案内」というように、自社が提案する内容そのものが変わってきます。
このように顧客のニーズが明確になったり潜在ニーズを掘り起こしたりできるのは、ヒアリング力の大きなメリットといえるでしょう。
認識のギャップを埋められる
徹底した顧客目線でヒアリングをおこなうと、顧客の話を正確に把握できます。このため、営業マンと顧客間における認識のギャップを埋めて、顧客に合う提案が可能になります。
逆に営業マンのヒアリング力が足りなければ、いつまでたっても平行線をたどり共通認識をもてません。
平行線のまま両者のギャップを埋められない場合、顧客に最適な商品やサービスを提供しづらくなります。あるいは誤解やトラブルを生む原因となってしまうでしょう。
これを避けるには、やはり丁寧で地道なヒアリング力が必要です。認識のギャップを埋めて良好な関係をつくれば、成約へつながる確率が高くなります。
最適な自社商品・サービスを提供できる
ヒアリング力の高い人はコミュニケーション力に優れており、顧客の思いを適切に理解します。顧客に質問する過程を踏むことで、顧客に最適な自社商品やサービスをピックアップできるでしょう。
顧客に合う商品を提案できれば顧客からの信頼を得て、商談を友好的に進められます。
またヒアリング力が備わっていれば、顧客の悩みや質問を誠実に受け止め、相手にとって本当に必要な情報を伝えられます。
つまり、ヒアリング力の高い人は、顧客ニーズをしっかりキャッチして最適な商品やサービスを選択できるのです。この姿に顧客は安心感や信頼感を覚え、営業マンに重要な話をしてくれる可能性が高まります。
ヒアリング力を伸ばすコツ
ヒアリング力を向上させるには、ここで紹介する5点をしっかり身につけるのが重要です。ヒアリング力を伸ばして「何をどう引き出すのか」の「何」と「どう」を明確にしましょう。
まずは意識して聞く
まずは「意識」的に話を聞くことが第一条件です。自社商品やサービスの良さを知っているからこそ「早く伝えたい」といった気持ちは抑えましょう。顧客が話している途中なのに、割り込んでしまうのも厳禁です。
目の前の顧客の話を聞く姿勢は2つのメリットをもたらします。
- 顧客に信頼感をもってもらえる
- 顧客の話から気づきや発見を得られる
「聞く姿勢」は受け身のようですが、実は積極的な「情報収集の姿勢」なのです。顧客に信頼してもらうのと同時に、自身にとって有益な情報を入手できるため、聞くに徹する姿勢は重要だととらえましょう。
顧客の目を見る
顧客の目を見て話をするのは、誠実さをアピールするのに有効です。
目を見て話すのが苦手な営業マンは相手の眉や鼻のあたりをみるようにしましょう。顧客のなかでも目を見て話されると緊張する人もいるため、目以外の箇所を見るのに慣れておくのはおすすめです。
逆に、宙を見ていたり伏し目がちに話したりする営業マンに対して、顧客は「何か隠しているのではないか」「うそを言っているのではないか」といった印象を持つ可能性があります。
このように思われるのは営業にとって致命的です。顧客の目を見て話すのは、営業マン自身や会社の誠実さを伝えることになるため念頭におきましょう。
顧客の話をくり返す
顧客の話をくり返すのは、顧客に「この営業マンは私の話を聞いてくれる」といった安心感をもたせます。単に「はい、なるほど、そうですね」とYesのみを続ける姿勢は良くありません。
また、顧客の話をくり返して伝えることで、営業マン自身が顧客の話を理解しやすくなるメリットもあります。理解が深まれば顧客に必要な情報を提供したり、より具体的な質問内容を考えたりできます。
顧客の話をくり返すときは、相手の気持ちを理解し共感する姿勢を大切にしましょう。
最適な質問をする
顧客が話す内容をしっかり理解すると同時に、その内容をより具体的に知るために必ず質問します。質問には次のようなものが考えられます。
- オープンクエスチョン:相手に自由に応えてもらう方法
- クローズドクエスチョン:二者択一の方法
顧客のニーズを的確につかむためには、2つの方法を臨機応変に用いる力が必要です。
オープンクエスチョンは、たとえば「営業部署の生産性が向上しないのは、どのような理由だと思いますか?」といった質問です。問題の所在が明確でない場合や多くの情報を知りたい場合に使います。
クローズドクエスチョンは「将来の生産性は改善すると感じますか?」が挙げられます。質問する側が仮説を立てて確認したいときに活用できる方法です。
商談の際は、まずはオープンクエスチョンでさまざまな課題や情報を引き出したうえで、質問を重ねていきます。そのなかで営業マンが仮説を立て、クローズドクエスチョンで確認するスタイルが有効です。
なお質問する際は、顧客の話を最後まで聞いてから質問するようにします。また顧客自身が、新たな気づきを得られるような質問ができるように努めましょう。
相手の気持ちを推し量る
前述の質問する際にも該当しますが、顧客の気持ちを徹底的に推し量る姿勢がポイントとなります。その理由は、推し量れると顧客に適切なアドバイスやサポートがしやすくなるためです。
推し量るのは、顧客の言葉や話す内容だけではありません。営業マンは相手の様子を良く観察し、表情や声のトーン、言葉遣いなどから気持ちを読み取るようにします。
質問の仕方や顧客の様子を観察する姿勢は、人間の心理を重視する姿勢とつながります。商談のスタート時から成約につながるまでの過程で心理が多分に働いていると理解し、些細な点も見逃さないようにします。
結局日ごろのこうした姿勢が、ヒアリング力を向上させていくのです。
具体的に何をどう引き出すのか
ヒアリング力を伸ばすコツのなかでもお伝えしたように「ただ聞く」だけではヒアリングではありません。顧客のニーズをしっかり把握し、より適切な提案ができることが重要です。
ここではヒアリングにおいて、具体的に「何」を「どう」引き出すのかを解説します。まずは「何」の一つめとして「現状の課題や悩み」を解説します。各項目のなかで「どう」の部分を説明しますので、本章でしっかり確認してください。
現状の課題や悩み
現状の課題や悩みは、顧客が一番「なんとかしたい」と思っている項目です。企業の規模や売上高、資金調達、社員の雇用などさまざまです。
これらの課題を把握するには、今回紹介したヒアリング力が必要です。ただ、初対面の顧客と会う前に事前準備は必ずおこないましょう。
WebサイトやSNSツールの運用状況、プレスリリースや書籍、雑誌などで可能な限り情報収集します。これらの情報を把握して分析したうえで営業トークをおこない、現状の課題や悩み、本質を明確にします。
また、顧客がすでに導入している施策がある場合は、施策のメリットやデメリットを洗い出し、課題解決に足りない点をさらに抽出します。
めざすゴール
顧客の現状に関するヒアリングをおこなう際、「顧客の抱える課題や悩み」だけに焦点をあてるのではなく「めざすゴール(顧客がもとめる姿)」をヒアリングするのをおすすめします。その理由は「理想」と「現状」のギャップや程度が明確になるためです。
「ギャップを埋める作業が、営業マンと顧客間でおこなう商談である」といった共通認識に立つのが理想です。まためざすゴールは、営業の終盤でおこなう提案内容が適しているかどうかを確認するうえでも重要となります。
納期やスケジュール
課題を解決するのは、今すぐなのか、数ヶ月先なのか…など納期やスケジュールに関しては企業の事情や課題の大きさによって異なるでしょう。
法制度の改定によって伴う課題解決には緊急性が伴いますが「将来的に○○のようにしたい」といった課題に関してはスケジュールにゆとりがあります。
納期やスケジュールに対する認識にギャップがある場合、いざ商談をすすめていくなかで「もう少し早めに提案してほしい」「そんなにあれこれを急かさないでほしい」という感情を顧客に抱く場合があります。
納期やスケジュールに関しては前もって確認し、実際に商談が始まったとしてもときに確認するようにしましょう。
予算
顧客が課題の解決に向けて、どのくらいの予算をもっているのか把握するのは重要です。ただ、予算はいくらお考えですか?」と唐突に聞くのはおすすめできません。
たとえば、下記のように顧客が話しやすい質問をしてみましょう。
- およその目安となる金額はございますか?
- 〇〇に関する予算の割合は例年どのくらいでしょうか?
「ズバリいくら?」と予算を聞くのではなく、少し遠回しな方法で「予算感」を聞き出すほうが、相手に警戒心をもたせません。
決裁者や決裁ルート
BtoBの営業では、その場ですぐに成約につながらないケースがあります。この場合はそれまでの流れを無駄にしないよう、顧客側の決裁者や関連する人(部署)、決裁までの流れなどを確認しておくのが重要です。
ただ、予算と同様に比較的核心に触れる部分であり、聞き方が難しいと感じる営業マンもいるでしょう。実際は、商談のお決まりとして顧客も理解しているケースが多いため、普通にたずねて構いません。
たとえば「ご成約される場合、どのような流れで決定されますか」と質問してみます。若干聞きづらいケースの場合は、語尾を濁して相手に「つなげる」のもスキルのひとつです。
顧客もその事情がわかっているため、察知して応じてくれるでしょう。顧客が決裁の話に応答してくれない場合は、まだ信用されておらず契約には遠いと判断し、信頼構築に向けたアプローチを練り直す必要があります。
そのほか懸念事項
仮に自社商品やサービスの購入(導入)が決まっても、顧客に心配や疑問が残っている可能性はあります。ほんの少しでも懸念事項がある場合、契約後のトラブルにつながる可能性もあります。
このため、必ず顧客に「不安や心配はないか」を確認しましょう。また購入(導入)後のアフターフォローやサポートに関する情報をしっかり伝えておくと顧客の安心感につながります。
いずれにしても、成約がゴールではありません。営業マンは成約から新たなスタート地点に立つととらえ、顧客との関係性を保つ努力をします。この姿勢が信頼関係の構築につながるのです。
ヒアリングを成功させるために
ここでは、ヒアリングをしっかりおこない、めざす成果を出すために必要な視点、注意点を解説します。
事前に調査をして仮説を立てる
顧客と会話を進めるなかで、相手が抱える課題を見つけて解決の糸口を見つけるためにヒアリングをします。ヒアリングを効率的におこなうためにも、事前調査は重要です。
顧客情報を丁寧に把握・分析しておきましょう。最初の商談で顧客の話を聞いて、事前に仕入れた情報を確認したり補足したりします。
この過程でより深く聞きたいことがあれば必ず質問します。質問内容は、顧客の現状と理想像とのギャップを明確にし、課題解決に向けた仮説を立てるためのものです。
初めての商談前に仮説を立て、商談を進めるたびに仮説を確認したり修正したりして、商談の質やヒアリング力のレベルを上げていきます。
同業界や同規模の企業情報を提供する
顧客情報を調べて分析するのはもちろん、業界全体や同規模の企業情報を把握しておくと、ヒアリングに活かせます。
「たとえば貴社と同規模の○○社では当社の▢▢が採用されており…」のように話を投げかけることで、顧客の興味づけにつながり、情報提供に関して「どのようにお感じでしょうか」のように質問できます。
ここから、顧客の本音やニーズを探るのも可能です。
また、企業の成功事例、ユーザーの生の声を紹介することで、顧客に安心感をもたせます。
実は新たな商品やサービスの購入(導入)を検討する段階では、顧客の多くは不安を抱えています。不安感を少しでも軽減するには情報を適宜伝え、それに対するヒアリングをおこなうのが有効です。
ヒアリングシートの活用
営業活動ではヒアリングシートを活用しましょう。
商談の前から事後まで実にさまざまな情報を入手します。情報を収集して分析しながら、ヒアリングに活かして…となる間に顧客からの情報を適宜整理しておかねば、効率的かつ有効なヒアリングをするのは難しくなるでしょう。
また、ヒアリングの過程で話がそれてしまったり聞きもれが生じたりする可能性もあります。誤解やトラブルを招かないよう、顧客との良好な関係性を築くには「残しておく」ものが必要で、それがヒアリングシートです。ヒアリングシートは、ヒアリング力の向上にも活かせます。
顧客の話をしっかり把握し最適な質問へとつなげられるよう、営業の際はヒアリングシートを有効活用しましょう。
まとめ
ヒアリング力は営業の場で大変重要です。顧客の話をまず最後までよく聞く姿勢が第一ですが、聞くだけでなく質問力を身につけてこそ、ヒアリングの力を向上させられます。
ヒアリングは顧客に信頼されるきっかけにもなり、メリットは大きいといえます。
ただ、ヒアリング力を向上させるには、何をどう引き出すのか、具体的にとらえ実践に移していく必要があります。
今回の記事を参考に、自身のヒアリングをよりよくするために何が必要か洗い出してみてください。そして日々の営業活動で実践と改善をくり返しながら、顧客に最適な商品やサービスを提案していきましょう。